イラク派兵違憲判決と派兵恒久法

イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長

弁護士 川口創

 

違憲判決はみんなで勝ち取った

 名古屋の弁護士の川口創と申します。今日は名古屋から参りました。まず初めに、この違憲判決は、確かに3,000人以上の名古屋の原告、100人以上の弁護団で勝ち取ったものでありますけれども、その背後には皆さまを始めとした多くの平和を願う、そしてたたかってこられてきた皆さんの力があってこその判決だというふうに考えています。その意味で、この判決は皆さんで勝ち取った判決ということで、まず、冒頭、大いに喜びたいというふうに思います。(拍手)

 皆さん、自衛隊イラク派兵差止訴訟の、この判決をお読みになったことがありますか、ちょっと手を挙げていただけますか。あっ、結構いらっしゃいますね。ちょっと感想を伺いたいんです。最初、手を挙げた方。あ、また、激減しますね、こうなると。大体半分くらい減るんですよ。ここは3分の1まで減りましたね。皆さん、もっと自信を持って手を挙げてくださいね。別に感想を聞くだけですから。

 それでは、こちらの席の1、2、3番目の男性の方。感想とお名前と。

 「岐阜の竹中です。私が県内キャラバンに参加したときに、この判決文で一番使わせてもらったのは、ファルージャの無差別攻撃や、イラクの爆撃のほんとにこんなことまで見てきたのかと思うほど判決文にそれが書いてあるということが、ものすごく励ましになりまして県民に宣伝しました。ファルージャの町を夜中に空爆したとまでは書いてなかったと思うんですが、まあ勝手に宣伝してしまいました。で、爆弾は化学爆弾もナパーム弾もという。何やどえらいひどいことやっとるなと。クラスター爆弾も当然のことですけども。それが良かったなあ。これいろいろ調べてもらって、ご苦労さんでした。」

 「愛知の水野でございます。私は、この判決文は大変優しく書いてあって、非常に感銘を受けましたのは、最初のところで、まさに自衛隊の派遣が、イラクの、もしくはその周辺に自衛隊を送ることがまさに違反だと、送ってはならないと明記をされていることに非常に驚くと同時に、非常によくわかる、わかりやすい表現で明記されていることに感銘を受けました。で、判決当日にちょうど愛知の9条の会の集まりがあって、小林武さんが「今勝ったよ、判決が出たよ」と言って、飛び込んでいらっしゃいまして、胸がつかえてほんとに声にならないということも話されました。非常にすばらしい判決、名高裁だったと思います。今度は、要するに政治的に解決をする道を行動でということを呼びかけられておりますので、今日の全国集会、非常に大事だと思って参加をしております。」(拍手)

 今、結論を言われてしまったような気がします。私の講演の必要がほとんどなくなりました。皆さんおっしゃったように、これは読んでいただくとわかるんですけども、ほんとにわかりやすいですね。確かに出だしのところから丁寧に読もうとすると、主文とか何かそこら辺はちょっとわかりづらいかもしれませんが、「第3当裁判所の判断」というところの冒頭の項目が、「本件派遣の違憲性について」というふうになっていますね。これは、本件派遣の憲法適合性についてとか、合憲性についてという項目でなくて、本件の違憲性についてという項目をいきなり打っている、ここからが重要だと思います。この判決は、当裁判所の判断として、正面からイラク派兵の違憲性について検討していきますという決意の表れです。

 

「傍論」論は負け惜しみの「暴論」

 このどこが傍論ですか。傍論っていうのはいろいろな解釈あります。どういうのが傍論かは定まった概念ではないんです。傍論というのが重要になってくるのは、英米法みたいな判例が重要な国ですね。いろいろな裁判所の判例があときに、その判例のどこの部分が次の事件で拘束力があるのかということが大事になってくるので、傍論か本論の区別が大事になってきますが。日本は、アメリカ、イギリスとは違って、フランス、ドイツと同じ法律の流れなんです。だから、法律の条文の解釈をそれぞれしていくということが重要であって、判例の傍論とか理由中の判断とかっていう区別自体実務上はしません。

 どういうときに傍論だというかと言うと、負けたときの負け惜しみです。私も、合憲判決が最初出たら傍論だとか言って、逆の立場だったら絶対言いますね。基本的に負け惜しみなんです。ですから、今、福田首相とかが、傍論だとか、そんなの関係ねえとか、そういう反論しかできないということは、正面からイラク派兵についての合憲性についてまったく反論できないからですよ。この判決が不当だと言うのであれば、そして合憲だというのなら、この点とこの点とこの点はおかしいというふうに、正面から事実と違うという反論を真っ先にするはずです。それがまったくないですね。唯一、バグダット飛行場は戦闘地域ではないという反論ですけども、それについても、この判決は、そうした反論を念頭において違憲判決を組み立てています。後で説明しますけども、バクダット空港が万が一、非戦闘地域だと解したとしても9条1項に反する組み立てになっています。ですから、政府がいくら言い逃れをしても、その判決によればまったく逃げ道がない判決です。

 

殺す側には立ちたくない

 この判決の強みは、まず3,000人以上のまさに普通の市民。普通の市民という言い方は大変恐縮ですけども、ここにいらっしゃる皆さんは、平和のため、憲法を守るためにたたかってらっしゃるわけですが、そうではない日ごろ裁判のことも、政治のことも関心ない、憲法9条すら知らないという人たちがこの裁判には関わっています。学生さんなんか憲法9条読んだこともないし、キュウジョウ(9条)と言ったときも、いろんな漢字ありますね。野球場の球場とか、困ったときの窮状とか、そういうほうが浮かぶような学生さんすら、この裁判には加わっています。

 どこに一致したのか。それは、イラクで罪のない子どもたちが殺されていくこと、それに対して、私たちが殺す側に立つことは許せない、どうしてもそれだけは許せないという一致点で裁判に加わってきたわけですね。だから、憲法9条を守ろうということは目的というわけじゃなくて、イラクの罪のない子どもたちを殺したくない。私たちは殺す立場に立ちたくないんだと。人間的にまったく素直な感覚でこの裁判に加わってこられた方たちが多数います。そういう方たちの多くの陳述書が裁判所に届けられ、それが、人としての痛みが書いてあるわけでから、裁判官の胸を打ちます。そういう普通の市民が裁判を起こしたというのが1つ。

 

真実の情報の積み重ねが法廷を動かす

 もう1つは、これは新聞報道、私もヨルダンに行ったり、実際イラク人ジャーナリストともコンタクトしてますので、イラクの情報もダイレクトに入ってくる、そういう意味では、イラク訴訟の弁護団は、おそらく日本国内でもっともイラクの情報に精通したグループだというふうに思います。ただ、今回、違憲判決で出された証拠を見ていると、ほとんど新聞記事、もしくはDAYS JAPAN、信用性のある記事によって出されています。ですから、私が勝手に取材してきた情報とか全然根拠になっていません。

 それはどういうことかというと、皆さんが手にできる普通の情報です。どうしても見落としがちですよね、毎日どこで何人死んだとか。4年間もたってくると、どこそこの都市で空爆があって何人民間人が死亡したという、数字だけの報道になってきたもんですから、それをも含め全部丹念に弁護団の皆さん切り抜きをして、積み重ね、毎回毎回法廷にイラクの実態という形で訴えてきました。

 その中では、単純に数字じゃなくて、例えばアーヤちゃんって女の子がどう苦しんでいるのか、ディア君という少年がどう苦しんでいるか、どうしてこういう苦しみを負わざるを得なくなったのか。痛みがわかる訴えをしてきました。そこがやはりこの判決の原点になってるんじゃないかというふうに思います。

 

常識的な判断としての違憲判決

 そして、もう1点。この判決の論理は、政府の見解に立っているんですよ。仮に政府の見解に立ったとしても、という形で書かれています。これは、イラク特措法を合憲と言っているわけでもありませんし、政府の見解が憲法解釈上正しいと言っているわけじゃありません。ただ、仮に政府見解に立ったとしても、という形で政府見解を列挙して、それに今回の自衛隊のイラク派兵の事実をあてはめています。だから、そういう意味では、常識的な方たちが、常識的な資料を基に訴えた、裁判所はこれに対して政府の見解を軸に、常識的な判断を下した、というのがこのイラク派兵の違憲判決です。だから、政府は反論のしようがない。これほど政府にとっても「常識的」な判断はないですから。憲法学界の特別な議論を使っているわけでもありませんし、何か一般的に仕入れることが困難な情報を前提にしているわけでもありません。みんなが手にできる普通の情報で、政府見解に立ったとしても、やっぱりこれはおかしいよ。やっぱりだめだよと。そういう意味で「常識的」なんです。

 

判決文を通して事実を知り、知らせる

 その常識的な判決の強みというのは、これは周りの人たちに広げていく上でも非常に力になるはずです。しかも、イラクの実態についてきちっと整理してまとめています。今、私たちがしなければならないことは、派兵恒久法や憲法改悪阻止のためのたたかいのために一番大事なのは、机上の空論ではなくて、今まさに日本は戦争している、この戦争している実態がどうなのかということをリアルに伝えることです。こういうことをもう許していいのか、さらにそれらの先に行っていいのかという話を周りに広げていく上で、この判決文は非常に使えます。

 判決は、ファルージャの事実についてきわめて詳しく書いてあります。バクダットについても詳しく書いています。それはどういうことかと言うと、そこでアメリカ軍がやってる掃討作戦ってどういうものなのかということを丹念に書いてあるわけですよね。そこが派兵恒久法の問題に置き換えて考えた時に、それを日本の自衛隊もそれやりますよっていうことなんですね。

 安全確保支援活動が、今のイラク特措法の要件ですけども、今度の派兵恒久法では、安全確保活動やりますよと。「支援」が抜けています。直接、アメリカ軍やイギリス軍がやっている行為と同じことをやりますよ。じゃあイギリス軍やアメリカ軍やっている警護活動、治安維持活動ってどういうことですか、というと、ファルージャでやっているようなこと、バクダットでやってるようなことなんです。この判決文については、政府だってまったく内容について反論してないわけですから、否定できてないわけです。内容は正しいわけです。

 市民の皆さんに伝えるときにも、名古屋高裁で、最高裁に準ずる権威のある裁判所が、きちっと情報を精査して認定した事実だよと。政府だって全然反論できていませんよということを堂々と訴える。この判決文を通して事実を知り、学ぶ活動を広げていっていただきたい。それが派兵恒久法阻止のたたかい、そして憲法改悪阻止のたたかいの足腰を鍛える大きな力になるというふうに思っています。

 この前も、5月2日に判決が確定して、5月3日に群馬の高崎市、福田首相のおひざ元の憲法の集会に呼ばれました。ジャーナリストの斉藤貴男さんがメインゲストだったので、1,800人くらい来られたんですけど。その場を借りて違憲判決の報告させていただいたときに、冊子を100冊だけ持っていったんですね。そしたら、ものの5分で売り切れてしまいました。やはり皆さん、この判決をきちっと知りたいという思いがすごく強いですね。

 冊子には、判決文そのものと、当日、法廷で裁判官が読まれた要旨、それから弁護団の声明、3つ入っております。勉強会のときに、私がよくやるのは、じゃ、ここは名古屋高裁です。じゃ、あなたが裁判長です。じゃ、判決文要旨読んでくださいと、判決文の要旨を裁判官が読んでいるかのように読んでもらって、それをみんなで聞いて、その判決のときの場を、みんなで共有するとかいうところから始めると、結構盛り上がるわけです。こういう感動的な判決が裁判官の口から読まれた。法廷で読まれた。ほんとに涙を流す方たちが多い。歓喜沸き上がるというか、ほんとに何かじんわりと涙を流すというような、ほんとに感動的な時間だと思います。この判決の要旨を聞きながら感動を共有したということですね。そういう形でも使っていただきたいと思います。

 

判決の真髄

  本題に入ります。この判決の1つの神髄ということですけども。先ほど申しましたように、事実について丹念に示しているということです。本質は、イラクでの空輸活動というのは、クウェート、バクダット間で武装したアメリカ兵を送り込んでいたんです。およそ1年間で大体1万人のアメリカ兵を送り込んでいるという記事が、中日新聞から去年の7月頃に出ています。1万人の兵隊をバクダットにどんどん送り込んでいく。その先のバクダットで米兵がやっていることは何か。それはイラクの無辜の市民も殺す掃討作戦ということです。それに加えて、この判決がきちっと見抜いています。余談ですが、裁判官がすごい、こんな情報いっぱい調べて、すごいねって褒めていただいてもいいんです。だけど、証拠を出し、主張は全部弁護団がしています。そこの辺りも忘れないでいただきたい。すばらしい判決は、天から降ってきたわけではありません。原告が勝ち取ってきたものなんです。声を上げ続けていた成果だということを、念頭に置いていただきたいと思います。

 

掃討作戦の本質は市民の無差別殺戮

 この判決文もざっと見ていくと、ファルージャ、バクダットでの掃討作戦の実態を克明に認定しています。先ほどのファルージャのところだけ、どなたかに読んでいただきましょうか。(ア)ファルージャというところです。どなたか。こうすると、みんな下見ますね、目が合わないように。目が合いました。その女性の方、ちょっと読んでいただけますか。

 

 「(ア)ファルージャ・・『イラク中部のファルージャでは、平成16年3月、アメリカ軍雇用の民間人4人が武装勢力に惨殺されたことから、同年4月5日、武装勢力掃討の名の下に、アメリカ軍による攻撃が開始され、同年6月以降は、間断なく空爆が行われるようになった。同年11月8日からは、ファルージャにおいて、アメリカ軍兵士4,000人以上が投入され、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾、マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して、大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器と呼ばれる白リン弾が使用されたとも言われる。これにより、ファルージャ市民の多くは、市外に避難することを余儀なくされ、生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され、多くの民間人が死傷し、イラク暫定政府の発表によれば、死亡者数は少なく見積もって2,080人であった。』以上、甲B5の6、7・・・」

 

 ありがとうございました。この甲Bというのは、全部証拠の番号ですね。Bは事実関係ですので、Bと付いているのは事実関係の証拠だということです。

 今のところで、私たちが学ぶこといくつもあります。ファルージャのことは皆さん耳にしたことあると思います。こういう事実があるだろうなというのは、知識としてはあると思います。でも、そこからもう一度きちっと立ち返って学びましょう。

 

アメリカのやっていることは戦争そのもの

 派兵恒久法の問題でも私たちはきちっと押さえておかないといけないんです。これは治安維持活動です。警護活動の延長ですけども、アメリカ軍がやっている治安維持活動です。

 掃討作戦、これはイコール治安維持活動ですよね。その実態は何か。ここで、判決で書いてあるように「武装勢力掃討の名の下に」と、一応名目はそうなんだろう。しかし、その結果、どうなったか。多くの民間人が死傷し、生活の基盤となるインフラ設備、住宅破壊、市外へ避難することを余儀なくされる、罪のない民間人が多数殺される。武装勢力などという名目でやられたけど、実態としては多数の市民を殺している。生活の基盤もめちゃめちゃにしている。多くの市民が町から退去せざるを得ない。その町自体が廃墟と化しちゃうんですよね。そういうことをやる。それが掃討作戦、治安維持活動。アメリカがやっている戦争の本質ですよ。

 しかも、その時に使っている兵器は、クラスター爆弾、ナパーム弾、マスタードガス、神経ガス。ナパーム弾は焼夷弾みたいなもんです。ものすごく高温の焼夷弾ですけれども。クラスター爆弾も、皆さんご存知かと思いますけども、一定数が地雷として残るようになっていますから、子どもたちが空爆が終わった後に、ボールと思ってけっ飛ばして、吹き飛ばされて、手足失うとかいう事故が多発しています。ファルージャだけでなくイラク全土でそういうことをやっている。いまだにイラク全土にクラスター爆弾が残っていますからね。

 

私たちは戦争に加担している

 私たちが加担している戦争、日本が支援している戦争というのは、こういうことです。自衛隊の輸送対象が誰だって言ったら、武装した多国籍軍、主にアメリカ軍の兵員だというように裁判所は認定しています。それから、自衛隊はバクダットへ米兵の輸送活動を開始した平成18年7月の翌月から、米軍がバクダットに増派されているということも認定しています。

 

 平成18年の年末から、米軍がバクダット中心に大規模な掃討作戦をいっそう強化した。さらに、平成19年、去年になってから、バクダット都市への掃討作戦がいっそう激しくなった。平成19年、去年1年間のイラク国内の空爆が1,447回。おととし、18年のおよそ6倍も増えているんです。ところが、政府は、医療機器を空輸した一件以外は一切明らかにしてない。空輸活動の内容を一切明らかにしない。

 

 その結果として、少なくとも平成18年6月までの死者が65万に超えるとも言われているわけですから、その後、もっと多くの人が死んでいる可能性がある。イラクの人口の約7分の1に当たる400万人が家を追われ、シリアには150万ないし200万、ヨルダンには50万ないし75万人が難民として逃れている。イラク国内の避難民は200万以上。米軍を中心とする多国籍軍の掃討作戦で、子どもたちを含む一般人を多数死傷させた。これは判決で認定していることです。

 

9条違反の意味するもの

 皆さん、どうぞ考えてみましょう、イラク戦争。どうしても平和運動をやられている方、憲法を守るたたかいをされている方もどこか人ごとではないでしょうか。憲法を守ろう、戦争をする国にしないようにしよう。これどうですか。もう一度皆さんに質問ですけども、今、自分は戦後生まれだっていう方ちょっと手を挙げてもらえますか。結構いますね。

 さあ、それ正しいでしょうか。いや、年齢のことを、偽ってるんじゃないの、あなたたち、もっとお年でしょうとか言ってるわけじゃないんです。今、私たちは「戦中」にいませんかと。今を戦後と言い切っていいのか。今も、私、まさに戦争をしているんじゃないかと話しています。皆さんお生まれのときには、1945年の「戦後」だったかもしれませんけども、今まさに、イラクで日本は戦争をしてるんです。戦中なんです。この判決が示しているということは、9条1項違反ということはどういうことか。「戦争」しているってことを言ってるわけです。

 

 私は、ちょっと辛らつな言い方をさせていただきますと、この判決が出て、皆さん勇気づけられましたとか言われます。私は、勇気づいていただくのはいいんだけど、それで終わっちゃいかん。皆さんの判決ですと言って、先ほど拍手していただきました。それを拍手された皆さんは、皆さんの責任でこの判決を広げてください。

 なぜなら、日本は、今、「戦争」をしているからです。9条1項違反と言われたということは、実質的に戦争をしているということで9条違反と言われたわけでしょう。憲法を守る、名古屋高裁すばらしいで終えちゃいかんです。私たちは今、「戦争」しているんだというリアルな実感を持って、その認識の上で派兵恒久法の問題、憲法改悪阻止のたたかいをしないといけない。今、平和だという感覚と、いや、今もう既に戦争している、ほんとに危機的な状況なんだ、これ以上、戦争をアメリカと一緒に続ける国、もしくはアメリカよりも先に行くような国にしてはいけない、という感覚とでは、とらえ方が違いますよね。日本は今のめり込んでいます。アメリカでさえ、イラク戦争の総括をしようとしているのに、日本だけです、世界中で総括してないのは。総括させてないのは誰ですか。私を含めて、政府に対して総括させてないのは私たち国民の責任ですね。

 

いま日本は「戦争」中の認識から出発を

 ヨルダンに行ったときに言われたことで、PLOの創設者のメンバーの方に言われたことで衝撃的なことがあります。イラク自衛隊派兵の問題を私たちは訴えに行きましたが、そこで、PLOの創設者のおじいさんに会わせてもらいました。その時に、「日本は民主主義が進んで経済的に豊かだというふうに聞いていますけど、ほんとうですか」と聞かれました。弁護団の一人が、「本当です」と言っちゃいました。それに対して、「じゃあ民主主義が進んで経済的に進んでいる日本の皆さんが、なぜ軍隊を中東の地に派兵させたんですか。ほんとに民主主義が進んでいるんですか。」「派兵したのはあなただという自覚を持ってほしい。その自覚を持って国内に戻った時に、軍隊を撤退させるたたかいを全国各地から作ってほしい」と言われました。

 私は、それ正しいと思いましたね。どうしても政府のせいですと批判するのは楽です。でも、そういう政府をのさばらせている。選挙がないから、あるいは選挙の争点にならないから仕方がないじゃないかというふうに、どこか逃げている。これは、私たちの責任ではないか。

 今まさに、この判決が出たということで、私たちの責任で戦争を食い止めないといけないという動きを作っていくことが、憲法を守るたたかいの一番大事なところではないかと思っています。そこをきちっと押さえてないと、現状を見ないまま憲法を守ると言っても、たいぶ運動の質が変わってくると思うんです。そこをぜひ若輩者の私が言うのも非常に恐縮なんですけども、その認識を持っていただきたいというふうに僭越ながら申し上げたいと思います。

 

イラクでは2007(平成19)年1年間に1447回の空爆

 航空自衛隊が平成18年の7月に、サマワから陸上自衛隊が撤退することと交換で、航空自衛隊がそれまで危険だからって行ってなかった、バクダットへの輸送活動をアメリカからの強い要請に基づいて開始します。アメリカからの強い要請に基づいて開始していることの実態は、判決に書いてあります。その直後に米軍が増派しているわけです、バクダットに。増えているってことは、誰が増やしているんですか、日本の自衛隊じゃないですか。バクダットで増派しているってことは、日本の自衛隊が輸送活動した直後から、バグダットで米兵がどんどん増えている。これは、自衛隊が送り込んでるからです。そこから18の年末から19年1年間にかけて、バクダット中心にしてイラク全土で激しい空爆を行っているわけです。18年よりも6倍になって1447回に上る。1年365日で1日平均4回空襲があると考えてください。日本の全土で、1945年の時点に照らしてみたとしても、たとえば仙台、東京、名古屋、大阪とか、1日に4回空襲がありました。それが365日続きました。すごいことではないですか。これ、すさまじいですよね。確かに、東京大空襲のような大規模な空襲とは違いますから、空襲の規模は違うかもしれませんけど、イラク全土で365日、1日平均4回、どこかで空爆が1年間続いたわけです。これは、多くの民間人が殺されるのは当たり前ですよね。それを支援しているのは、私たち日本の自衛隊です。これは私たちの責任です。私たちの犯罪です。

 

空自輸送はイラク人殺害の共同正犯

 この判決が示しているのは、そういう意味で、私たち学ぶべきことが多いです。皆さんも知識としては、航空自衛隊が派兵され、バクダットとクウェート間を輸送していることは知っています。でも、それと切り離して、アメリカ軍が、イラク全土で1日4回も空爆していることとを切り離して理解しているんです。くっつけないといかんですね。

 バクダットで米兵が掃討作戦するためには、日本の自衛隊の活動は不可欠です。人殺しに行く時の、たとえば車で殺人事件に行きますという時に、運転手は車を家の前に止めただけで、殺すのはいけないと言ったとしても、絶対、刑事事件では、殺人の共同正犯ですよ。刑事事件で必ず言われるのは、そういう輸送活動、運転する人がいなかったら、この犯罪は起こらなかったと。この犯罪に不可欠な重要な役割果たしているから、その刑事責任はきわめて重いって断罪されるわけですよ。私たちは同じことやっている。直接殺してないにしても、不可欠なことをやっている。空自が送り込んだ米兵が掃討作戦をしているわけですから、私たち自身が、刑法に照らしたら殺人罪に問われるようなこと、大量殺人罪に問われるようなことをやっている。そこをきちっと押さえる必要があるだろうと思います。

 

平和的生存権の具体的権利性を認めた

 もう1点、ちょっと平和的生存権の具体的権利性を認めたという点です。ここちょっと読みますが、判決は、平和的生存権について、きわめて多様で幅の広い権利であるとして、裁判所に救済を求めることが可能な具体的権利性が肯定される場合がある。例えば、憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の遂行や準備行為や個人の生命、自由が侵害され、または侵害の危機にさらされた場合、あるいは戦争の遂行等への加担・協力を強制される場合には、裁判所に対して違憲行為の差止請求や損害賠償請求はできる。こういう「差止め」とは、事前にやめろということはできると言うんですね。

 海外派兵をしている国というのは、国内で人権弾圧をしていくのが歴史の常です。実際、政府は、海外派兵を拡大する一方、イラク派兵反対のビラ配布を弾圧するなど人権抑圧を進めています。その時に、平和的生存権を訴えることは、たたかう上で非常に重要だと思うんです。ビラ配りとか、いろいろな表現活動を弾圧しているということの前提として、平和的生存権の侵害だということをきちっと組み込んでいく。その他にも、基地反対闘争の問題等についても、平和的生存権が脅かされていくという形ですので、地域でのたたかいに、広がりを持つことができるんではないでしょうか。

 今までは、平和的生存権というのは学会上もほとんど無視されてきました。こんなの権利として認められないよっていうのがほとんど一般でしたから、現場で平和的生存権のたたかいだと言っても、何、憲法上認められないことを言ってんだと笑われるのが関の山でした。だけれども、この判決が出たことによって、具体的な権利だと、名古屋高裁が言ったということは、現場でたたかう大きな武器になるんですね。

 

最高裁の流れを一蹴した判決

 いずれにしても、たたかいの現場で、平和的生存権の固有の権利性を共有していくということは、たたかいに広がりを持つことにつながります。これは裁判で訴える、訴えないは別にしても、そこに本質があるんだということを共有することが、基地反対闘争とか、いろいろな平和運動とか、反戦のビラ配りをするにしても大事です。単純に表現の自由とか個人のレベルではなくて、憲法9を守るたたかい、それ自体が権利なんだ、ということを大きな力にしていくことができると思います。

 そういう意味で、この判決が、平和的生存権は今までは抽象的権利だった、具体的に訴えられる権利じゃない、使える権利じゃないとされてきたのに対し、いやいや、具体的に使える権利ですと言った。

 しかも、イラク訴訟では7次訴訟までやって、7次訴訟はたった1人の原告で、別の裁判体にかかっていました。そこの一審で、去年3月23日に、平和的生存権を認める判決が出て、控訴せず確定させました。その判決があって、この名古屋高裁判決ですので、2回目なんです。しかも、7次訴訟判決を前進させている。だから、いきなり出たわけじゃなくて、積み重ねの上で出ているので、非常に価値があります。

 平和的生存権のところに書いてあるところはかなり重要だと思います。平和のうちに生存する権利というのは、たとえば戦争と軍備及び戦争準備によって侵害されたり、きわめて多様だと。具体的にどういう場合に平和的生存権侵害になるんだということもしっかり書いてあります。今までの裁判所は、平和は抽象的概念であることや平和の到達点に達する手段、方法も多岐多様であることを根拠に、今までの裁判例はほとんど訴える資格ないと言ってきたんですけど、そんなこと言ったら、自由とか平等だって抽象的じゃないかと、何で平和のことだけが、抽象性のために、その法的権利性や具体的権利性を完全否定されなければいけないのだと。こんなのおかしいじゃないかって、そこに批判をして、具体的権利性を肯定しています。

 その上、具体的ケースがいっぱい出ているんですね。すばらしいことです、これって。今までの最高裁の流れを一蹴したんです。きわめて価値の高いことだと思います。これを生かしていくのは皆さん次第だと思います。ぜひいろんなたたかいの現場で、9条を守るということに加えて、平和的生存権を訴えて欲しいのです。それは私たちの権利だと。9条を守ることが、行動することが、私たちの権利だということに確信を持って、平和的生存権は権利なんだという意識を持って、堂々と運動していただきたいというふうに思っています。

 

派兵恒久法反対のたたかいを堂々と

 終了してくださいと言われましたが、恒久派兵法の派兵法関係を全然しないまま終了するわけにいかないので、ちょっとだけ。先ほども言いましたけども、派兵恒久法、今のところどういうのが出てくるかわかりませんが、石破試案を見る限りにおいては、国連の要請がなくても、自分の国の判断で行けます。それから、掃討作戦も可能になります。武器使用基準も緩和して、制限がありません。これは、アメリカ軍と一緒にイラクで掃討作戦をやることを想定して書かれています。国連決議もないようなところでアメリカ軍と一緒に戦争するためには、別に国連の要請もいらない。自分の判断で行けるようにしたい。アメリカ国内の大統領選挙に影響されたくないということから、自分の国の判断で、掃討作戦も可能だという。もうゆるゆるの状況で、制限らしい制限はまったくない。唯一、戦闘地域の要件は作ってあるんですけども、それはこの判決が示しているように、まったく意味を持たないということが、この判決からも明らかです。

 ですから、皆さんは、この判決を通して、これですらだめなんだから、この先の派兵恒久法は絶対だめに決まっているじゃないかと。しかも、これについての反論を政府はまったくできてないんじゃないかと。だから、堂々と自信を持ってこの判決を武器に、派兵恒久法のたたかいを皆さんと一緒に作っていきたいというふうに考えています。

 今、この判決の報告会は、全国から150以上もの講演依頼が来ておりまして、私があと一カ月の間に行くのが、熊本、福岡、熱海とか奈良、東京など行きますけども、仙台、この間、山形行ってまいりましたし、それから和歌山、京都と、ほとんど地元名古屋にいない。しかも私、本業は弁護士なんですけども、弁護士の仕事ができないということでたいへんですけども、今まさに派兵恒久法を阻止する正念場だと思います。この判決がいいタイミングで出てくれました。この判決をきちっと国民の中に根づかせていく。堂々とこういう判決が出たことに確信持って、これは、われわれの勝利なんだ、われわれの力なんだという確信を持って、地下水脈を作っていきたいと思っています。皆さんと共に派兵恒久法阻止、憲法を守るたたかいを作っていきたいと思っています。ともにがんばりましょう。

 どうもありがとうございました。(拍手)

 

 この論稿は、イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長の川口創弁護士が、憲法改悪反対共同センターの第7回全国交流集会で(6月21日)で「イラク派兵違憲判決と派兵恒久法」と題して行った講演録を事務局の責任でまとめ、ご本人の了解を得ています。