8月7日に自民党憲法改正実現本部の会合に出席した岸田文雄首相は、8月中に憲法9条への自衛隊明記に関する論点を整理するよう求めたと報じられた。
9月の自民党総裁選挙を前に、自らの再選のために自民党の改憲推進派の取り込みを狙うという権力闘争の側面と、9条改憲キャンペーンを先導する発言と考えられる。
市民に改憲の必要性の説明も行わず、権力闘争を有利に進める意図での発言は、国の最高法規である憲法をないがしろにし、国民からの「命令書」という憲法の性格や公務員としての憲法遵守義務を蹂躙する愚挙であり、強く抗議する。
岸田氏は、「8月末までに憲法9条への自衛隊明記に関する論点整理」を求め、「自衛隊に関し『国民のいのちを守るという国家の最も重要な責務を最高法規の中にしっかり明記する』と強調」し、「緊急事態条項とあわせ自衛隊明記も国民の判断をいただくことが重要」と述べ、「自民党結党70年の大きな節目に向け、党是である憲法改正の議論推進を要請」したと報道されている。いずれの点も国民的な議論の深まりはなく、国会の憲法審査会の論議からも逸脱している。
JNNが行った今年8月の世論調査で、「次の総理に最も重点的に取り組んでほしい政策」の中で「憲法改正」は最も少ない1.7%の回答でしない。改憲を「重要な課題」との強弁は、市民の世論をふまえない「上から目線」にほかならない。
岸田氏の発言の背景には、今年4月の日米首脳会談や、7月の日米安全保障会議(2+2)を通じて、日本とアメリカが一体となって世界各地の紛争、戦争に関与し、日米の統合防空ミサイル防衛を融合させてアメリカ軍の指揮下に自衛隊を組み入れることなど、憲法の制約を踏み越える「合意」を重ねてきたこともある。「安保3文書」の閣議決定以降の岸田内閣の安全保障政策と憲法との矛盾が極限まで高まり、自民党総裁選挙も通じて「9条改憲キャンペーン」を強めざるを得ない必要性に駆られていることも見過ごせない。
今年5月の朝日新聞の世論調査では、憲法9条があることで「日本は戦争をしないで済んできた」との意見に8割が共感し、同じ時期の産経の世論調査では改憲論議を「急ぐ必要がない」と65%が回答している。
また、7月に公表された日本世論調査会の「平和に関する世論調査」では自衛隊は「専守防衛に徹するべき」と68%が回答している。そのいずれもが、敵基地攻撃をアメリカ軍と一体で行う自衛隊像を受け入れるものではない。
憲法の平和の理念を強く支持するそれらの市民の思いを声にし、運動で可視化していくことで改憲暴走は阻止できると確信する。
2012年暮れの安倍政権発足以来、改憲の攻撃が幾度となく繰り返され、解釈改憲、立法改憲が強行されてきたが、立憲野党の国会内外での奮闘と署名や宣伝、集会などの市民の運動で、明文改憲は阻止し続けてきた。このたたかいの経験も糧に、改めて9条改憲を許さないたたかいを急速に盛り上げよう。
2025年は、第2次世界大戦終結から80年目の節目となる。その年を憲法9条が再び輝きを増す年にしていくために、この夏からたたかいの輪を広げていこう。
2024年8月9日
戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター