(談話)
国家による学問の自由の侵害は許されない
- 違憲・違法の日本学術会議会員任命拒否の撤回を求める –
10月1日の日本学術会議総会で、同会議が推薦した新会員の内6名が、菅首相によって任命を拒否されたことが明らかにされた。翌日、日本学術会議は、「政府からの独立を譲るべきではない」との立場から、6名の任命拒否撤回を求める要望書を菅首相に提出した。
しかし、菅首相は「法律に基づき任命した」と強弁し、政府の担当部署も任命拒否の理由を明確にすることなく「義務的に任命しなればならないというものではない」と開き直るという許しがたい対応に終始している。
任命を拒否されたのは芦名定道京都大学教授、宇野重視東京大学教授、岡田正則早稲田大学教授、小沢隆一東京慈恵会医科大学教授、加藤陽子東京大学教授、松宮孝明立命館大学教授であり、多くが安保法制・戦争法、特定秘密保護法、「共謀罪」などの違憲法制や辺野古新基地建設に反対する見解を表明してきた学者である。
学問的見地から政府方針を批判したことが任命拒否の理由とすれば、学問の自由、思想信条の自由への正面からの挑戦であり、重大な人権侵害である。
任命拒否の理由を政府が明らかにしないことも、学者のみならず広く市民への萎縮効果を狙うものであり、きわめて狡猾である。
政府への批判を許さない姿勢も安倍政権から引き継ぎ、さらに強めるための菅首相による任命拒否を黙過することは、民主主義のさらなる後退となりかねない。異なる意見を排除する社会、物言えぬ社会への道に進むことを拒否し、決定の撤回を強く求める。
日本学術会議は1949年1月に設置された「政府から独立して職務を行う『特別の機関』」であり、会員210名の任命は「(日本学術会議による)推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(日本学術会議法第7条2項)とされる。この任命行為の趣旨は、憲法第6条の天皇による内閣総理大臣の任命行為と同様に裁量の余地はなく、推薦の承認が義務付けられるものである。実際、政府は従来から「形だけの推薦制であり・・・学会の方から推薦していただいたものは拒否しない」(1983年参議院文教委員会での政府答弁)などと述べていた。
憲法に「学問の自由」(憲法第23条)が明文化されたのは、戦前の滝川事件や天皇機関説事件などの政府による学問、言論への介入、弾圧が、軍国主義と戦争への道を開いたことの反省に立つからである。その点で、学問の自由は市民的権利の根幹をなす規定でもある。日本学術会議はこの憲法規定にそって、「原子力3原則」や軍事研究への批判など、国の施策に対する意見、勧告などをおこなってきた。
今回の任命拒否は、そのような憲法と経緯を無視して日本学術会議の独立性を否定し、政府方針への忖度、隷従を迫るものでもある。市民共通の利益を損なう暴挙にほかならず、断じて認めることはできない。
菅首相は安倍政権の官房長官として、集団的自衛権行使容認の閣議決定にむけた内閣法制局長官人事への介入や、同様の法の変更は、東京高検検事長の定年延長にかかわる検察官への国家公務員法適用での解釈変更にも深くかかわり、内閣人事局を通じた官僚支配強化を主導してきた。その手法を学術分野に持ち込むための任命拒否であり、その悪影響は容易に想定される。
また、この間の政府の対応は、首相の任命権を恣意的に解釈して行使するものであり、立法機関である国会の権能をも形骸化させかねない点でも大きな問題を含んでいる。
私たちは、権力への忖度、隷従を迫る動きを断じて許さない。黒を白と言いくるめ、押し付ける社会に進ませないため、立憲主義、民主主義を守る政治実現の取り組みに全力をあげる。
すでに行動に立ち上がっている学者、市民と手を携えて、任命拒否の経過と理由を明らかにし、憲法を踏みにじる任命拒否の撤回をめざし、立憲野党の国会での追及と連携して世論と運動を強めるものである。
2020年10月6日
戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター
(談話)「国家による学問の自由の侵害は許されない -違憲・違法の日本学術会議会員任命拒否の撤回を求める-」(PDF)